棟方志功の最も大きい作品である「東北経鬼門譜」は、詩人佐藤一英が陸奥の飢饉の話から着想を得て昭和10年「新韻律詩抄」の中で発表した「鬼門」と題する詩をモチーフにして、昭和12年に制作されました。古来より恐ろしい危難の待ち受ける「鬼門」と呼ばれた東北に在す故郷・青森の地の受けた凶作の宿命を、仏の力を借りて幸あらしめたいという願いが込められています。
中央に阿弥陀如来、その左右に菩薩、行者、人間の順に配し、両端に貧困ゆえに闇に葬られた胎児が描かれており、両端の胎児、真黒童子と真黒童女が、仏の慈悲によってだんだんに中央の如来に導かれ、極楽浄土へ招かれるという構図になっています。
「東北経鬼門譜」は板木120枚を縦に5枚、横に24枚並べて一つの作品としたものですが、棟方はその一部を独立した作品としても発表しており、左端に描かれた「真黒童女」のうち、最上段に位置する童女の顔の部分が描かれた1枚が「阿童女の柵」です。